小森榮先生のご逝去を悼む

 季刊刑事弁護で長く連載を続けられた薬物弁護の第一人者、小森榮弁護士が2017年1月26日、お亡くなりになりました。67歳でした。


2006年3月、関東信越厚生局麻薬取締部で取材中の小森榮弁護士。 

 小誌では38号(2004年4月)から連載「もう一歩踏み込んだ薬物弁護の弁護術」を開始。第1回は「変貌する薬物と薬物事件」と題し、巻頭にはMDMA錠剤や覚せい剤などの写真をカラーで掲載しました。以後、62号(2010年4月)までの計24回にわたり、薬物とかかわってしまった人の将来までを見据えた弁護活動のための、「もう一歩踏み込んだ」知識と実践をご紹介くださりました。

 その後、連載内容を整理し、先生が扱われた薬物事件700件あまりの量刑データを収録したCD-ROMも付した単行本として小社より刊行いたしました(『もう一歩踏み込んだ薬物弁護の弁護術』2012年)。「捜査」「公判」から「薬物の薬理と病理」「薬物依存の治療と回復」まで、400頁を超える圧倒的な情報量の、他に類をみない書籍として、増刷もいたしました。

 そして75号(2013年7月)からは、同連載「Part 2」として再登板。薬物事件をめぐる近年の新しい動きに対応するべく、ご執筆いただいておりました。しかし残念ながら、87号(2016年7月)掲載の第12回「危険ドラッグ沈静後の薬物犯罪」が最後となってしまいました。

 依頼者一人ひとりのための「もう一歩踏み込んだ」弁護を心がけていらっしゃった小森先生は、薬物をめぐるあらゆることを知ろうとなさいました。そして学ぶ際には、書物からだけでなく、できるだけ「現場」に足を運び、人に会おうとされました。

 編集部も同行し、とにかくいろんな場所に取材に行きました。関東信越厚生局麻薬取締部には、一時期は毎月のように通いました。ケシの生態を学びに、東京都薬用植物園に行ったこともありました。逮捕現場で用いられる簡易鑑定キットの使い方を教えてもらうために、キットのメーカーや商社にも行きました。最新の分析機械を見るために「分析展」なる見本市にまで出かけました。薬物依存治療の最新事情を学ぶために、広島の病院まで行ったこともありました。

 傍らにはいつも、優秀な相棒であるお連れ合いさまがいらっしゃいました。

 お亡くなりになる10日ほど前に、お見舞いに伺いました。そのときには、違法収集証拠をめぐる議論について、あらためて整理したかったとおっしゃっていました。叶わぬこととなってしまったのが、本当に残念です。

 小森先生、これまで本当にありがとうございました。

季刊刑事弁護編集部

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