【解説】「共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明(2017年2月1日)」

  過去3回国会に上程されていずれも廃案になった共謀罪法案が、若干の修正のうえ、あらためて今国会(第193回常会)に上程されることになった。

 私たちは従来から共謀罪法案に反対してきたが、2016年後半から再上程の準備が進められていることを知って危機感を抱き、今年1月高山佳奈子京大教授を中心に数名で法案反対の声明を作成した。そして刑事法研究者に広く賛同を求めたところ、呼びかけ人を含め161名もの賛同を得ることができた。その全文は下記のURLに掲載されているので、ご覧いただきたい。

 本声明は、法案が閣議決定される前に作成されたもので、法案の内容を仔細に検討してはいない。今回の法案をみてみると、主体を「組織的犯罪集団」に限ったうえ、「計画」のほかに「計画をした者のいずれかにより……計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われ」ることを構成要件要素とし、その計画の対象を、長期4年以上の刑が定められている犯罪類型のうちの277個に限定している。このように、従来の政府案に比べれば処罰範囲に明文上の限定が加えられているのはたしかである。

 しかし、基本的な問題点は従来の政府案となんら変わるところがなく、また、法案準備段階での報道をもとにした本声明における批判が妥当する。上記のような限定によって、処罰範囲が不当に拡大したり捜査権・刑罰権が濫用される危険が払拭されたわけでもなく、実行行為中心の現行刑法の体系を崩す(予備のみならず未遂も処罰されていない犯罪類型で計画に加わった者が処罰されることになるなど)という点もまったく解決されていないのである。

 私たちがこの問題を考えるうえで踏まえておかなければいけないことは、第1に、処罰規定が増えれば増えるほど、不当な処罰や濫用の危険が高まることである。実行行為以前の行為を処罰する場合にはとくにこのことがあてはまる。第2に、このことゆえに、国内の社会状況からみて処罰がぜひとも必要な行為だといえないかぎり、処罰規定を設けるべきでないことである。第3に、実行行為中心の刑法の体系を崩すべきではない。これを崩してしまうと、体系だった法解釈ができず、また、立法する際も場当たり的になってしまう。第4に、国際的な要請はたしかに重要であるが、必ずしも絶対的な要請ではないと考えられることである。国際組織犯罪防止条約の批准において、共謀罪に関する5条を留保することは可能だと思われる。また、従来、政府は、長期4年以上の刑が定められている犯罪類型についてはすべて共謀罪を創設するのが同条約の要請だと強硬に主張してきたが、これまでの国内での批判を受けて、本法案では犯罪類型を限定しており、立場を大きく変えている。この立場変更にてらしてみても、それぞれの国が国内の事情に応じて条約の要請を実質的に解釈し柔軟に対処すること(たとえば、共謀の処罰対象を予備処罰のある犯罪ないしは未遂処罰のある一定の犯罪に限定する、同条約5条3項の「合意内容を推進するための行為」を既遂結果実現の相当の危険のある行為に限るなど)は十分可能であろう(国内法の原則・伝統との調和を求める同条約の「立法ガイド」36、43項参照)。

 今後の国会の動きに注意し、本法案の成立をぜひとも阻止しなればならない。

三島聡(大阪市立大学法学研究科教授)

共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明
(2017年2月1日)

http://www.kt.rim.or.jp/~k-taka/kyobozai.html

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